★送信管 『4P55シングル・ステレオパワーアンプ』 製作記★・・・製作編
|
||||
HOME 4P55アンプの『構想編』 | ||||
|
このアンプの構想編をアップしたのは2009年2月末頃でした。桜の咲くころにはと思っていたのですが気付くと早新緑も鮮やかな季節の到来です。新緑の芽吹きと共に送信管4P55シングル・アンプもようやく完成致しました。こうした重量級アンプを作る機会は多くはありません。久しぶりに“骨太アンプ作りを堪能した”というところです。 しかしアンプが完成したのは良いのですが、このアンプの“音に酔いしれて(?)”中々このページがアップできませんでした。アップが遅れましたことをお詫びしつつ、下記に少し細かいお話も出てきますが、『4P55シングル・パワーアンプの製作記』として製作過程、特性等のご紹介を致します。 |
||||||
|
■アンプ部の構成■ | <各写真はクリックで拡大します> | ||
●アンプ部はタカチのSL-20HGを使用しています。シャーシの寸法は450(W)x305(D)x65(H)です。下記にアンプ部シャーシに搭載されている主要部品をご紹介します。 ●出力トランスはタムラ「F-2013」一次側インピーダン10kΩを使用しました。ひずみ率特性が少し悪化しますが、一次インピーダンスは5kΩでも良いかもしれません。この場合最大出力は増加します。 ●出力管は日立製の「4P55」を搭載しています。動作は固定バイアス、Aクラスシングル、A1級の動作領域です。スクリーングリッドは別電源より370V前後の定電圧バイアス。サプレッサーグリッドはカソードにつないだビーム管接続です。 ●電圧増幅管は全てメタル管「5693」を使用しています。赤いのがRCA、黒い球はGE製を使用しています。 ●中央後部に見えるケミコンは、エルナ「セラファイン」、47μ+47μ/500Vです。これは47μをパラレルに接続し100μとし、さらに2本を直列に接続した上で耐圧1000Vに対応させています。 ●ケミコン手前はチョークコイルISO「EC-8-200S」8H 200mAを搭載し、電源部と合わせたダブルチョーク・フィルターとし、リップル除去に万全を期しています。 ●入力ピンジャックは前面に配置しました。入力ジャックの左側は音量調整器(VR)です。VRはアルプス製2連27角デテント型を採用しています。 |
|||
●プレート電流の調整と監視用に電流計を装備しました。電流計の両サイドのツマミはプレート電流の設定用可変抵抗器です。 ●スピーカー端子は極太ケーブルに対応した大型スピーカー端子を採用しました。中央部に見えるツマミはスピーカーのインピーダンス切換スイッチで、4Ω/8Ω/16Ωを選択します。 |
|||
|
|||
●プレート電流は60mAにセットします(写真はパワーオフ状態)。ここで言うプレート電流とは、スクリーングリッド(SG)の電流も加味された電流値を示します。 無信号あるいは通常音量でのSG電流は極わずか、実測では2mA程度ですので、メーター指示値をプレート電流の値としています。 ●もっとも本機はシングルアンプですので、プレート電流の絶対値にあまりこだわることはありません。“約”60mAでOKです。 |
|||
●写真左端に見えるのはメーターON/OFFスイッチです。一度セットされたプレート電流は回路上で異常をきたさない限り大きく変わるものではありません。プレート電流は一度セットした後はメーターをOFFにして、メーターの指示値を気にせず音楽鑑賞に没頭できるわけです。 ●最近アナログ・パネルメーターに良いものが少なくなりました。本機で使用したメーターは富士計測器(株)のFA-38型、FS100mAの電流計です。 |
|||
|
|||
●写真右はシャーシ内部の部品配置と配線の様子です。写真上部に信号系、中段より下にデカップリング電源系を配置しています。 ●デカップリングのケミコンには小容量ですがフィルムコンデンサーをパラに入れて、高域周波数でのインピーダンス低下を図っています。 ●中央部左右のオレンジ色はオレンジ・ドロップ0.33μ/630V、下に見える4本の黄色いコンデンサーはCDE 0.47μ/1000Vです。増幅部の白いコンデンサーはお馴染みのASCの0.47μ/400Vです。 ●送信管アンプは高圧もさることながら、部品点数も多くなりがちです。出来るだけスッキリと簡素に配線すことで後々のトラブル回避と、検討中のアクシデント回避につながります。 |
|||
●電圧調整用抵抗のワッテージ(ディレーティング)は、実測の2〜3倍以上に定格を上げて長期にわたる信頼性を確保しました。 | |||
|
|||
■電源部の構成■ | <各写真はクリックで拡大します> | ||
●電源部のシャーシもアンプ部と同様SL-20を使用して各パーツをレイアウトしています。シャーシの寸法は450(W)x305(D)x65(H)です。 ●構想時点では整流管にWE705Aを使用する予定で進めた本機ですが、WE705Aの内部抵抗が高く使用することが出来ませんでした。結局5R4WGAによる倍電圧整流で落ちつきました。 ●WE705Aの負荷特性の実測データは下記のグラフのとおりです。ティピカルな負荷特性として赤線で示しています。 ●WE705Aでは100mA位の負荷時には約500Vもの電圧降下が発生してしまいます。つまり無負荷時の電圧が1000Vとすると、100mA流した時には500Vに低下してしまうと言うことになります。結局この球は超高圧・小負荷電流向きと言うことで、早々に退去願いました。 ●電源部は2個の電源トランスと3個のチョークコイルを使用し、下記3系統のDC電源で構成されています。 |
|||
1)タムラ「PC-3013」:AC400Vタップより、プレートがパラ接続された2本の5R4WGAによる倍電圧整流回路。DC出力電圧は負荷電流120mA時、チョークコイルの出口で890V。 2)PC-3013の230Vx2タップより±電圧を作り、カソードフォロワー部の±電圧を供給。カソードフォロワー/ドライバー段で作り出されるマイナス電圧は、4P55のグリッドバイアス電圧として供給される。 3)ISO S-2154(特注)を使用した、4P55のスクリーングリッドへの供給電圧、及び電圧増幅段への供給電圧。 電源系統は上記の3系統を、2つの電源トランスで作り出しています。各真空管へのヒーター電圧は、2個の電源トランスに備えられたヒーター用巻き線を使用し、各真空管の定格と照らし合わせて適宜点火しています。 4P55プレートへの供給電圧(+B1)は、電源部とアンプ部に各1個チョークコイルを搭載したダブルチョークによるπ型フィルター回路とし、リップルの除去に万全を期しています。電圧増幅部及び4P55のスクリーングリッドへの供給電圧電源にもRCAのメタル管 5T4による整流管整流・チョークフィルターとし、チョークコイルは計3個使用の構成です。 ●電源スイッチは2個装備し、1個はACラインON/OFFスイッチ「パワーSW」、他の1個は4P55のプレート電圧をON/OFFするスタンバイスイッチです。スタンバイSWはONのままで、パワーSWをON/OFFしても問題はありませんが、少し長い間システムに電源を入れたまま席を離れる時に、プレート電圧をOFF出来るよう配慮しました。 ●スタンバイSWを積極的に使用する場合は、最初に電源SWをON、1分位経過した後スタンバイスイッチをONします。OFF時はこの逆で、スタンバイSWをOFF、10秒後くらいに電源SWをOFFします。 |
|||
|
|||
■本機の主な特性と仕様■ |
周波数特性 | 10Hz〜20kHz ±0.3dB以内 | 負荷抵抗8Ω・出力+10dBm |
10Hz〜50kHz ±3dB以内 | ||
ひずみ率 | 1kHz:0.44%・・最小ひずみ率0.1% | 負荷抵抗8Ω・出力1W |
10kHz:0.56%・・最小ひずみ率0.1% | ||
100Hz:0.45%・・最小ひずみ率0.1% | ||
定格出力 | 24W・・ひずみ率5%時の出力 | 負荷抵抗8Ω・周波数1kHz |
最大出力 | 27W・・ひずみ率10%時の出力 | |
残留ノイズ | 0.3mV | 負荷抵抗8Ω・VR MINI |
4P55・プレート電流 | 60mA | 電源ON後約30分のメーターの読み |
4P55・プレート印加電圧 | 850V | Ip=60mAに設定時 |
4P55・SG(G2)印加電圧 | 370V | ツェナーダイオードによる定電圧印加 |
4P55 G1バイアス電圧 | 約-56V(Ip=60mAに設定時) | 固定バイアス |
ゲイン | 29.9dB(LRのゲイン差0.1dB) | VR MAX・負荷8Ω・周波数1kHz |
NFB | 15dB (周波数:1kHz) | OPT16Ω端子より2段目増幅段へのNFB |
出力インピーダンス | 1.5Ω | 負荷抵抗8Ω・周波数1kHz 測定はON/OFF法 |
ダンピング・ファクター | 5 | |
消費電力 | 260W | Ip=60mA 無信号時 |
145W | スタンバイSW OFF時 | |
寸 法 | アンプ部:450(W)x305(D)x230(H) | (W),(D)は突起物を含まないシャーシの寸法 (H)はゴム足を含む高さ寸法 |
電源部:450(W)x305(D)x210(H) | ||
重 量 | アンプ部:約22kg 電源部:約18kg |
|
|||
PAGE TOP↑ | |||
■本機のアンプ部回路の説明は下記参考図の『回路図・回路解説』でご紹介しています。 | |||
特性データ等は下記の参考図を参照願います。 |
|||
■参考図 回路図・回路解説 特性データのグラフとコメント シャーシ・電源部部品配置検討図 シャーシ・電源部加工図 シャーシ・アンプ部部品配置検討図 シャーシ・アンプ部加工図 |
|
||||
■このアンプの発熱について | ||||
送信管アンプと言うと発熱量が凄いのではと思いがちですが、実はこのアンプはさほど熱くなるアンプではありません。もちろん出力管4P55は真空管ですので熱は発生します。しかし、肉厚で表面積も大きなカーボンプレートと、内部電極を覆うこれも肉厚の厚いガラスに覆われた4P55は放熱効果も高い球のようです。 4P55のプレート損失は50Wほど消費していますのでガラスの表面を触れば熱いです。しかしその熱がシャーシに伝わることは少なくなく、パワーオン数時間後の熱飽和に達した時点でのシャーシの表面は“ほんのり暖か”程度、表面温度上昇の測定はしていませんが、恐らく上昇分で15度〜20度前後だと思われます。 2個のパワートランスも負荷電流に対して容量が大きなトランスですので、電源トランスの表面温度上昇も極わずかです。触感ではこちらも15度前後の上昇だと思われます。 4P55の動作ポイントは定格に対して50%以下、そして電源トランスの容量も十分大きなこのアンプはさほど大きな発熱もなく、長期に渡る安定動作が望めるアンプに仕上がっています。 |
||||
|
||||
■音質・フルレンジで試聴 | ||||
この部屋(実験室)で使用しているフルレンジスピーカーは、パイオニアの16センチフルレンジ「PE-16」(8Ω)4本を、シリーズ・パラに接続したスピーカーシステムを使用しています。写真上部の2本には、サブコーンを付けたコアキシャルに改造して少し高域改善を図ったものです。 このシステムの使用に何か特別な理由があるわけではありませんが、この部屋で使い初めてすでに20年程使い込んだSPです。長い間同じスピーカーを使用していますと、アンプを変えた時の音質の差が良くわかるのです。 4P55アンプもしばらくはこのSPで試聴を重ね、その過程の中で一部定数のトリミングを施したりしながら完成に至りました。 |
||||
先ず感じるのは『分解能が高い』、300Bシングルアンプから薄いベールですが1枚ベールがはがれた印象です。いわゆる送信管アンプの音はどちらかと言うと高域に特徴を持つ音質になりますが、このアンプは分解能が高いのと同時に低域も豊か、躍動感あるいわゆるピラミッド型の再生です。 分解能が高いアンプは、時として“硬質感・きらびやか”な音質になることもありますが、本機は決して柔らかい音ではありませんが、パリッとした音にもかかわらず、耳障りな刺激音は感じられず、落ちついた“貫禄さえ感じられる”バランスの良さを感じます。 300Bの音とも2A3の音とも、そして845/211、あるいはKT88とも異なる、正に『4P55の世界』とも言えるかもしれません。ジャズを聴くことが多いのですが、シンバルがとてもリアルに聞こえてきます。ピアノのアタックもきちっとしていて気持ち良く響きます。弦もしなやかに、そしてブリリアントな印象を持って聞こえてきます。 |
||||
■音質・マルチシステムの「TD-4001」で聴いてみました | ||||
しばらくフルレンジで聞きこんだ後、別の部屋に設置されている3 Wayマルチシステムの中高域2インチドライバー「TAD TD-4001」で聞いてみました。システムの概要はここを参照してください。TD-4001の常設アンプはタムラ・パーマロイコア出力トランスを搭載した300B PPモノラルアンプ「HK-16」ですが、4P55アンプに置き換えてみます。 ホーンスピーカーにつないだ後、先ずチェックするのはノイズです。音圧100dBを超える高効率スピーカーでは“全く皆無”と言うノイズレベルではありませんが、それでも本機のノイズレベルは、ホーンの中に耳を近づけてやっと聞こえるレベルです。300Bなどの直熱管アンプとは比較にならない極少レベルです。 |
||||
音はフルレンジの印象そのままに、スケールの大きな雄大な再生音が聴かれます。ジャズのシンバル、ピアノなど、正にリアルに再生されます。300B PP
HK-16と比較すると、300B PPはどちらかと言えば控え目なところもある中高音ですが、4P55アンプはストレートに“すっ飛んでくる”印象です。ビブラフォンの分解能は、鍵盤いっぱいに動き回るマレットの動きが目に見えるようです。共鳴時の響きもとてもリアルに聞こえます。トランペット、サックスなど金管は圧巻とも言える熱気が伝わってきます。 クラシックのオーケストラを聴いてみました。録音にもよりますが楽器の多いオーケストラ再生は、時に“団子状態”になることもあります。しかし、このアンプではスケールの大きさと分解能の高さを伴って、オーケストラ再生でも雰囲気良く再生されます。 一方、やや弦の“きつさ”は避けられませんが、これはモニタースピーカーの持ち味(?)で、このマルチシステムからは“フワッとした柔らかさ”は体験できるものではありません。むしろこうした音を志向する時には上記のフルレンジの方が良いでしょう。 このシステムからも、現在試聴が可能な各種直熱管アンプ、あるいはビーム管PPアンプとも異なる音が聴かれます。3 Wayマルチシステムからも『4P55アンプの世界』が展開されています。 |
||||
PAGE TOP↑ | ||||