『HK-34解説・管球王国Vol.88抜粋』
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■新型タムラトランス搭載・300Bの真価を引き出す・高音質300BPPモノーラルパワーアンプ |
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2012年にリリースされましたタムラトランス900シリーズは、2017年には一部リニューアルされ、電源トランスはPC-1000シリーズとしてよりパワーアップされたのと同時に、ケース寸法が高さ方向に20mm増加し、高さ135mmになり、WE300Bのシャーシからの高さ寸法5.3インチ(134.6mm)とほぼ同じになりました。
リニューアルトランス搭載機は既に4モデルをご紹介していますが、その第5弾として今回は300BPPモノーラルパワーアンプ『HK-34』をご紹介します。これまでのリニューアルトランス搭載機で採用しましたシリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオード(SiC
SBD)の高音質は既に実証済み、本機でも躊躇なく採用しています。
2012年900シリーズトランスの開発以来、本トランスを搭載したパワーアンプをご紹介してきました。それぞれに持ち味のある高音質アンプに仕上がったと自負していますが、中でも管球王国誌Vol.70でご紹介しました大型パワー管KT120PPアンプ『HK-25』からは、KT120の可能性はもとより900シリーズトランスのパフォーマンスも加味されて、ビーム管PPアンプとしては過去に類を見ない高音質アンプに感じます。リニューアルトランス搭載機はKT150PPにアップグレードされ『HK‐31』としてリリースしました。
これら経験と実績も踏まえてHK-31の回路設計を踏襲し、EH Gold Grid 300Bを採用したPPモノーラルパワーアンプ『HK-34』を製品化しています。低内部抵抗仕様の直熱三極管は無帰還アンプとすることが多いのですが、本機ではNFB
ON-OFFスイッチを設け、無帰還アンプ又は帰還アンプ(NFB=6dB)の音を堪能することができます。また各社の300Bの差し替えにも対応します。
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■出力管300Bは12AU7カードフォロワー・バッファーでドライブされる・固定バイアスAB2級動作
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HK-34の全回路図は<■HK-34・回路図・実体配線図・特性pdf>でご覧ください。
初段電圧増幅段は12AT7によるSRPP回路、この段のゲインは29dBの設定です。直結された位相反転/プリドライバー段は12BH7によるムラード回路を採用しました。
出力段300Bとの間に12AU7によるバッファー回路を設け、300BをカソードフォロワーでドライブするAB2 PPアンプです。バイアスの深い300BPPの実力、特に最大出力を引き出すためのドライバー段の設計には大きな配慮をしなければなりません。
前製品の4-300BCPP『HK-27』では、定格出力は27W、最大出力は31Wでした。これに対して、ドライバー段をさらに強化した本機では、定格出力32W、最大出力は37Wと実測さる高出力を得ています。
AB2級ドライバー回路からは、AB1級に比べてより大きな出力を引き出すことができますが、私が感じる最も大きなメリットは、カソードフォロワー回路(バッファー(緩衝)アンプ)とも言う)で電圧増幅段と出力段とを分離することで、相互で生じる干渉を回避できることにあります。
具体的にはドライバー段の負荷が軽減され、低ひずみ率と高出力電圧が確保されたドライバー回路とすることができます。さらには出力段との間で生じるひずみキャンセルが発生せず、その結果各周波数でのひずみ率が良く揃った特性が得られます。
出力段300Bは固定バイアス方式、プレート電圧の実測は465V、プレート電流は50mA、この設定で300Bのプレート損失は23.3Wと計算され、300Bのプレート損失の最大定格値40Wの約65%の動作になり、300Bの長寿命化が期待できます。
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上図にHK-34のレベルダイアグラムを示しました。本機は無帰還とNFB 6dBを選択できます。無帰還時のゲインは30.6dBの設定、NFB後のゲインは24.6dBになります。NFB切り替えスイッチはゲインの切り替えはしていませんので、適宜VRを調整してお使いください。
出力トランス「F-925A」の1次側インピーダンスは5kΩです。ここで、2次側8Ωとの減衰比を計算しますと、-27.96dBになり、PPアンプは1次側で正負の波形合成が行われ、その値は6dB増加、したがって減衰比の理論値は-21.96dBとなり、本機の実測値-22.4dBとの差-0.4dBが出力トランスの挿入損失として計算されます。
本機の回路のポイントは、電圧増幅部にSRPP回路を採用したこと。そしてカソードフォロワーによるドライバー段と出力段300Bとの接続は、『増幅部の相互接続の原則』に従うこと。この2点です。
相互接続の原則とは、限りなく小さな出力インピーダンスで送り出された信号を、限りなく大きな入力インピーダンスで受けるということです。この原則に従うためには入出力インピーダンス変換回路が必要で、本機では12AU7によるカソードフォロワーのバッファー回路がその役目を担っています。
電源部整流ダイオードには、このところ定番になりつつあるシリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオード(SiC SBD)を採用し、300Bの真価を余すことなく引き出すことに寄与しています。
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■電源SW・プレート電流調整・NFB ON-OFF・VRはシャーシ上面に備える |
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プレート電流の調整は、音量調整器最小、バイアス調整VRを反時計方向に絞り電源を投入、20〜25秒あたりから徐々に針が振れ、40〜50秒後位で一旦安定します。この時点でバイアス調整VRを0.5V(50mA)に設定します。
その後1〜2時間経過後に再度微調整して完了です。メーター上にあるV4,V5の選択SWは、ON-OFF-ON SWを採用しましたので、レバー中央位置でメーターはOFFになります。
V4とV5の電流アンバランスは、出力トランスの規格から最大で8mA以内ですが、通常は1〜2mAには入ると思います。そして、プレート電流の絶対値は45mA〜60mAの範囲に設定されていれば問題はありません。
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■HK-34の特性
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HK-34の基本特性はこのページ<■HK-34・回路図・実体配線図・特性pdf>の3ページに示されています。
周波数特性:本機のオーバーオールNFBは6dBの設定ですが、6dBといえども帰還をかけた以上NFBループ内の位相変化は避けらず、わずかではありますが方形波応答でのオーバーシュートやリンギングが発生します。
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本機の10kHz方形波出力波形は、下図に示した通りリンギングは観測されませんが、若干オーバーシュートが観測されます。
発信に対する安定性はループ特性を測定するまでもなくこのまま放置でも構いませんが、小容量のコンデンサー(C5 100pF)で位相の推移を整えることで図の通り角の取れた穏やかな方形波応答とすることができます。
この結果本機の周波数特性は、高域50kHz近辺からなだらかに減衰する特性が得られます。100kHz以上の周波数で出力トランスの周波数特性に依存するところが大きいわけですが、出力トランスF-925Aの高域特性は特に破綻もなく、素直なインピーダンス特性を持った出力トランスです。
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■HK-34の10kHz方形波波形 |
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■HK-34のダンピングファクタと出力インピーダンス |
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ひずみ率特性:各周波数でのひずみ率特性は設計時意図したとおり見事に揃い、そしてリニア領域で直線的に増加して行く特性は、電圧増幅段と出力段との間に入るカソードフォロワーの恩恵で、段間で生じるひずみキャンセルが発生していない証です。
本機の出力はひずみ率5%時の定格出力で31.5 W/8Ω/R、ひずみ率10%の最大出力で36.9W/8Ω/Rが得られます。第6図は入出力特性です。NFB
ON時の本機のゲインは24.6dBの設定です。
入出力特性:6dBのNFBを施した後の本機のゲインは29.1dBに設定しました。各段のレベル配分は上図のレベルダイアグラムと合わせてご覧ください。
本機の出力は、ひずみ率5%時の定格出力は31.5W、歪み率10%時の最大出力は36.9Wと実測さる高出力を得ています。
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■HK-34の音質 |
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私がDACの自作を始めてかれこれ15年程になりました。当時はCDPの外付けDACがメインのテーマでしたが、そんな中USBからSPDIFへのDDコンバーターを入手、以来USBオーディオに目覚めてしまいました。
しかし、やがてSPDIFにも見切りをつけ、I2SフォーマットにPCオーディオの可能性を見出したのもそのころでした。この間その時々で話題になったDACチップ、例えば『新潟精密・FN1242A』、『ESS社・ES9018D』、あるいは『旭化成エレクトロニクス・AK4495/4497EQ』などなど、その時々でエポックが築かれた最新チップを搭載したDACの自作を繰り返し、今ではリスニングルームの主音源はPCオーディオに置き換わってしまいました。
分解能の高いDACチップが定着した近年、USBオーディオの音質向上も目覚ましく、一点の曇りもないクリアーな、そして天井知らずのダイナミックレンジの広い高音質再生が容易に得られるようになったのです。
こうして音源の再生品質が向上すると、勢い再生音量も上げ気味になり、効率があまり高くないスピーカーシステムと300Bシングルアンプでは、ダイナミックレンジの天井付近での再生が窮屈になる場面もしばしば見受けられます。こうしたハイレベルでの再生環境で救世主となるのがPPアンプです。本機では300Bの持ち味をいかんなく発揮できる電気特性に仕上げてあり、シングルアンプとは一線を画する音質は、高度なUSBオーディオ再生にも十分耐え得るパワーアンプであると思います。
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