『HK-31解説・管球王国Vol.85抜粋』
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■新型タムラトランス搭載・大型管KT150PPアンプ |
タムラ製作所の管球式アンプ用オーディオトランス900シリーズのリニューアル版PC-1000シリーズがリリースされ、新型トランス搭載の300BシングルアンプHK-30を84号でご紹介しました。
新シリーズの電源トランスPC-1036は、電圧増幅部ヒーター用電流が2Aから2・5Aへ、出力管ヒーター用は2Aから3Aへ容量アップし、さらに2次側AC電圧が350Vから360Vへ、負荷電流は180mAから190mAへと、全体に一回り強化されました。
これらは些細なようですが、設計者にとって歓迎すべき仕様変更で、例えば、電圧増幅段の真空管本数を3本から4本へ、あるいはヒーター電流0・8Aを消費するECC99のような真空管を採用するなど、回路設計の自由度が広がります。
奥行き寸法は900シリーズと変わらずシャーシへの取り付けは互換性を保ちながら、高さ方向を20mm増加させて135mmに変更されました。同時に出力トランスには『末尾A』を付けて電源トランスと同一デザインになります。チョークコイルのケース寸法は従来品(A-825)とサイズは変わらず、ケースのデザインが統一され、同じく末尾Aが付けられています。
今回はこれらリニューアルトランス搭載機その第二弾として、新トランスの仕様に合わせて新たに回路設計を見直したKT150プッシュプル・モノラルアンプ『HK-31』をご紹介します。HK-31はKT150に最適設計としていますが、KT88、KT120に換装可能なコンパチアンプ仕様としています。
■■■→タムラトランス・900シリーズ・仕様.pdf
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■出力管KT150は12AU7カードフォロワー・バッファーでドライブされる固定バイアスAB2級ドライブ
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HK-31の全回路図は<■HK-31・回路図・実体配線図・特性pdf>をご覧ください。
初段電圧増幅段は12AT7によるSRPP回路、直結された位相反転/プリドライバー段は、ECC99/12BH7によるカソード結合型ムラード回路を採用しました。初段の12AT7は無帰還時のゲイン、NFB量等を熟慮した結果12AT7に決めました。
出力段KT150との間には12AU7によるバッファー回路を設け、出力段KT150をカソードフォロワーでドライブするAB2 PPアンプです。AB2級ドライバー回路は、限られた+B電圧の中からKT150にふさわしい高出力を得るためには不可欠な回路構成です。さらにはここにバッファー回路を入れることで電圧増幅段と出力段とを分離することができ、相互で生じる干渉を回避できることにあります。
さらには位相反転段の負荷が軽減され、低ひずみ率と高出力電圧が確保されると言う、正に優れたプリドライバー回路とすることができます。そしてその結果出力段との間で生じるひずみキャンセルが発生せず、各周波数でのひずみ率が良く揃った特性が得られます。
出力段KT150は固定バイアス方式、スクリーングリッドはUL接続と3結がSWで選択可能です。プレート電圧の実測は465V、プレート電流は50mAの設定で、UL接続時の定格出力は実測で約60W、最大出力は約66W(共に8Ω負荷時)と高出力アンプに仕上げました。
電源部はニュー電源トランス「PC-1036」を搭載し、整流ダイオードには前回300BシングルアンプHK-30でも採用しました高耐圧・高音質の、シリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオード(SiC
SBD)を採用し、KT150の持つ高音質を余すところなく引き出すことに寄与しています。
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整流ダイオードはSiC SBDを搭載 |
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出力管のバイアス調整用メーター |
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出力端子右側に配置されたUL-3結SW |
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■フルスケールDC1Vの電圧計でプレート電流を調整する |
組立完成後あるいは他の出力管に交換した際、本機はプレート電流の調整を行います。本機のプレート電流の設定は、V4,V5のカソードに入るR21,R22(10Ω)の両端電圧を、シャーシ上に備えられた1Vフルスケールの電圧計を監視しながら、電圧計左右の調整VRで0.5V(50mA)に設定します。
この場合のプレート電流はスクリーングリッドの電流も含みますが、無信号時のスクリーングリッドに流れる電流は極わずかですので、カソード電圧(電流)の値をプレート電流に置き換えています。調整要綱は、音量調整器最小、バイアス調整VRを反時計方向に絞り電源を投入、20〜25秒あたりから徐々に針が振れ、40〜50秒後位で一旦安定します。
この時点でバイアス調整VRを0.5V(50mA)に設定します。その後1〜2時間経過後に再度微調整して完了です。メーター上にあるV4,V5の選択SWは、ON-OFF-ON
SWを採用しましたので、レバー中央位置でメーターはOFFになります。
V4とV5の電流アンバランスは、出力トランスの規格から最大で8mA以内ですが、通常は1〜2mAには入ると思います。そして、プレート電流の絶対値は45mA〜60mAの範囲に設定されていれば問題はありません。
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■カードフォロワー回路で“相互接続の原則”を維持
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本機の回路のポイントは、電圧増幅部初段にSRPP回路を採用したこと。そして、出力段KT150との接続は、『増幅部の相互接続の原則』に従うこと。この2点です。
相互接続の原則とは、限りなく小さな出力インピーダンスで送り出された信号を、限りなく大きな入力インピーダンスで受けるということです。この原則に従うためには入出力インピーダンス変換回路が必要で、本機では12AU7によるカソードフォロワーのバッファー回路がその役目を担っています。
12AT7 SRPPによる初段部と直結されたムラード型位相反転回路の出力電圧は、入力インピーダンス約200kΩのバッファーに入力され、カソードフォロワーで低い出力インピーダンスに変換され、音声信号をロスなく出力段KT150のグリッドに入力することができます。同時に電圧増幅段と出力管との間で発生するひずみのキャンセルが生じません。
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■KT150は軽負荷動作で長寿命
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AB2固定バイアスPPで動作するKT150はプレート電流50mAの設定で、プレート電圧は約465Vになり、この結果プレート損失は約24W、定格70Wに対して35%弱の動作点です。
実はプレート電流を50mAに設定したのは、電源トランスの発熱から決めれた値ですが、放熱に配慮をすれば65mA程でも問題はありません。ただ、65mAでの音質に優位性が見られなければ50mAの設定にしてください。 |
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■本機の特性
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本機の特性は<■HK-31・回路図・実体配線図・特性pdf>を掲載しています。
周波数特性:本機のオーバーオールNFBは17dBの設定ですが、フラット領域をあまり欲張らず、方形波の通り具合そして下記のボード線図などに目配りしながら適度な平坦特性が得られるような位相補正を施しています。100kHz以上の高域周波数では出力トランスの周波数特性に依存するところが大きいわけですが,出力トランスF-925Aの高域特性は特に破綻もなく、素直なインピーダンス特性を持った出力トランスで、NFBもかけやすいです。
ひずみ率特性:各周波数でのひずみ率特性はほぼ同じ、そしてリニア領域で直線的に増加して行く特性は、電圧増幅段と出力段との間に入るカソードフォロワーの恩恵で、段間で生じるひずみキャンセルが発生していない証です。
本機のULポジションでの出力は、ひずみ率5%時の定格出力で59.5W/8Ω/R、ひずみ率10%の最大出力で65.5W/8Ω/RとKT150にふさわしい高出力が得られます。
入出力特性:本機のNFBは17dBに設定しました。NFBを施した後の本機のゲインは27dB前後になります。 |