『HK-30解説・管球王国Vol.84一部抜粋』 F-913・管球王国誌Vol.79評価記事.pdf
|
■タムラトランス「リニューアル900シリーズ」発売(2017年発売) |
タムラ製作所から管球アンプ用オーディオトランス、900シリーズがリリースされたのは2012年10月でした。900シリーズの商品化プロジェクトには私もお手伝いをさせていただいたシリーズですが、発売以来低価格ながらタムラトランスならではの高音質が自作派マニア諸氏より高い評価を得て今日に至っています。
この間少々非力な感があった電源トランスにはパワーアップのリクエスト、あるいは海外ユーザーからは海外仕様のリクエストなども多く寄せられ、これらに対応するため電源トランスのパワーアップと、海外向をラインアップした『PC-1000シリーズ』にリニューアルされました。
新シリーズのトランスは、電源トランスのコアサイズが大きくなったため新たなケースに収められています。幅、奥行きは900シリーズと変わらずシャーシ取り付けは互換性を保ちながら、高さ方向を20mm増加させて135mmに変更されました。
同時に出力トランスには『末尾A』を付けて電源トランスと同一デザインになりました。チョークコイルのケース寸法は従来品(A-825)とサイズは変わらず、ケースのデザインが統一されています。ちなみに高さ135mmはWE300Bのシャーシからの高さ寸法5.3インチ(134.6mm)とほぼ同じになります。
早速第一弾、300Bシングルアンプ『HK-30』をご紹介することになりましたが、2012年にご紹介しました300BシングルアンプHK-22をベースに、300Bのドライバー部を強化し、パワーアップされた新シリーズの電源トランスに合わせた回路構成としています。同時に近年高耐圧・高音質で話題の、シリコンカーバイド・ショットキーバリアダイオード(SiC
SBD)も整流管整流と切り替えでその音質を楽しめる設計としました。
→タムラトランス・900シリーズ・仕様.pdf
|
新旧トランス比較 左:リニューアル版「1000シリーズ」 右:900シリーズ |
 |
|
 |
|
|
|
|
■バイアスの深い300Bの実力を引き出す『HK-30』の回路構成 |
HK-30の全回路図と特性図は左記に掲載しました。 →HK30・回路図・実体配線図・特性図.pdf
新に開発されたトランスを使用するという背景もあり、過去モデルとの音質比較において遜色ない音質を確保することはもとより、新開発出力トランスの実力を最大限発揮できる、実績ある回路構成としています。
本機に搭載されたトランスのラインアップは、電源トランスにはPC-900のリニューアル版「PC-1040」(1000シリーズ)、出力トランスは「F-913A」、チョークコイルは「A-825A」です。今回の仕様変更ではデリケートな巻き線で構成される出力トランスの巻き線設計は既存設計が温存され、ケースのみ変更で末尾Aを付けてリリースされるということで、900シリーズで培った特性と音質は維持されます。
そもそも出力トランスの巻き線は鉄芯に銅線が巻き付けてあるだけと言う素朴なものですが、しかし、それだけにノウハウの塊で、うかつに手を付けると音が決まるまでに長時間を要するものなのです。
電源トランスPC-1040の主な変更点はAC6.3Vに10Vのタップが追加され、負荷電流が1.2Aから2.5Aにアップされました。それに伴い本機の初段電圧増幅段は左右独立使用の12AU7パラレル、ドライバー段には12BH7/ECC99 SRPP回路の採用で、下記に示す通りバイアスの深い300Bを余裕を持ってドライブできる回路構成としています。12BH7のヒーター電圧/電流は6.3V/0.6A、ECC99(JJ)は6.3V/0.8Aです。
|
 |
|
左に示した図は、本機のドライバー段のリニアリティーを示しています。
出力段300Bをドライブするためのドライバー段の出力電圧は、図に示す通り47Vrmsの出力電圧(振幅)が必要です。
この大きなドライブ電圧に対応するため、本機ではECC99をドライバー菅とし採用、加えて最大振幅を確保するためECC99のSRPP回路を採用しています。
この結果HK-30のドライバー段の最大出力はノンクリップで約70Vrms(198Vp-p)、最大出力は90Vrms(254Vp-p)を得ています。
|
|
|
■電源トランスの強化とSiC SBD整流を採用で高性能化を図る |
PC-1040ヒーター巻き線の容量アップは、電圧増幅段に使用する真空管の選択が古典管を含めて選択の余地が広がりました。出力管300Bは自己バイアス動作で、本機の出力は定格出力(ひずみ率5%時)で8.5W、最大出力(ひずみ率10%時)で9.4Wが得られます。本機の動作点での300Bのプレート損失は23W、最大定格36Wの60%前後の動作点に設定されています。
300Bのフィラメント整流にはSBDブリッジを採用、ハムバランサー調整後のSN向上に寄与します。NFBは無帰還を基本としていますが、切り替えスイッチを設けてNFB
ON/OFFが選択できます。NFBは6dBを標準としますが、回路図にはNF量9dBと3dB時の抵抗値も記載しておきましたので、必要に応じて定数を変更してNFB量の設定をしてください。
電源部も整流管整流とダイオード整流が選択できます。ダイオードはSiC SBDを採用しました。SiC SBDの特徴はシリコンでは実現できなかった極小(ほぼゼロ)の逆回復時間(trr)により、スイッチングノイズが発生しない高速スイッチングが可能になったこと、そして何と言っても真空管愛好家にとって嬉しいのは、SBD構造で1000V以上の定格電圧(尖頭逆方向電圧)が確保できるということです。
半導体機器でのシリコン(Si)SBD整流による音質向上は目を見張るものがあります。しかしながら、容易に入手可能なSi SBDの耐圧は40〜60V、高くとも100V程度であるため、真空管アンプの整流回路には対応できませんでした。そんな中、シリコンカーバイドSBDなるパワー素子の量産化を目にしたのは4〜5年前でしょうか。
近年ロームの逆耐(Vr)1200V品と600V品が市場で入手が可能になり、昨年来テストを重ねた結果、手元の真空管アンプは明らかにシリコンダイオードとは一線を画する高音質が得られます。管球王国誌68号に「半導体整流器16種の聴き比べ」で音質評価が掲載されていますが、特に中高域の晴れ晴れした、青空に突き抜けるような高域は正にSBDの音です。
気がついいてみますと、リスニングルームの機器はほとんどSi SBDもしくはSiC SBDに換装されています。そんなテストを経て、本機にもSiC
SBDの採用に至りました。整流ダイオードの耐圧は、両波整流、倍電圧整流では2次側AC電圧の2.83倍(3倍)、ブリッジ整流では1.42倍(1.5倍)になります。従いまして本機の2次側AC電圧は370Vですのでダイオードの耐圧は(Vr)1050V以上となり、ロームのSiC
SBD (Vr)1200V品が採用されています。仮にSBDの音質が逆回復時間(trr)に依存するとしたら、SBDの構造上耐圧が高い方がtrrの数値が大きくなり不利になる方向です。従っオーディオ的には耐圧が高ければ高いほど良いということではないようです。 |
|
整流管・5U4GB SiC SBD SW |
|
NFB ON/Off SW 無帰還と6dBのNFB |
 |
|
 |
|
|
|
■出力トランス「F-913A」について
→タムラトランス・900シリーズ・仕様.pdf F-913・管球王国誌Vol.79評価記事.pdf |
旧製品『HK-22』に搭載されている出力トランス「F-913」は300Bシングル用に開発されたもので、一次インピーダンスは3.5kΩです。
出力トランス単体での減衰比は、3.5kΩと8Ωでは計算値で-26.41dBになります。一方、本機での一次側と二次側(8Ω)での実測値は-26.9dBとなり、この結果、F-913の定損失は0.29dBと計算されます。
リニューアル版出力トランス「F-913A」は、コアサイズおよび巻き線設計は変更されておらず、ケースのみの変更で、旧製品「F-913」のスペックと音質は引き継がれています。 |
|
■真空管アンプ・通風の配慮 |
本機の電源部は、整流管5U4GBによる真空管整流と、シリコンカーバイト・SBD(SiC SBD)によるダイオード整流が選択できます。整流出力のDC電流(+B電流)はトータル約140mA流れます。この負荷状態で約6時間通電し、電源トランス熱飽和後のケース上部の温度上昇を測定してみますと、上昇分で約23℃です。
ケース入りの電源トランスは伏せ型のトランスと比較してコアサイズが小さくなり、どうしてもケースの表面温度は上昇してしまいます。このアンプに限りませんが、特に夏場は風通しの良い場所に設置してお使いください。 |