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★クロスオーバー・ネットワーク(チャンネル・デバイダー) SONY 『TA-D88』 ★


写真上は取説写真より抜粋掲載
写真左は最近システムに入れてテストした結果、我がマルチシステムに劇的な変化をもたらし、そしてその音に大いに感銘を受けた「エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク SONY TA-D88」である。

TA-D88は、通過帯域での群遅延(グループ遅延)時間特性が一定になるベッセル型フィルター回路が採用され、遮断特性は4次、-24dB/octと急峻な傾斜特性を持つチャンネルデバイダー、発売は1978年、ちょうど30年前であった。

その3年後の1981年、最強モデルと言われるESPRITシリーズ・TA-D900の開発につながったモデルでもある。
先日、友人が真空管で自作したチャンネルデバイダーを携えての訪問があった。その折、「これ使わないので使えたら使って!」。ただ、「Rチャンから音出ませんよ、直すのも面倒だし、自作チャンデバの結果も良かったし・・・。」、と言うわけで置いていったものである。かねてより一度聞いてみたかったチャンネルデバイダーでもあり、早速修理・点検にとりかかり聞いてみることにした次第である。

幸運にも故障の原因部品はすぐに判明、定電圧電源回路のマイナス側出力PNPトランジスタ、2SA473の破壊であった。2SA473の定格は30V・3A・10W、これに近いPNP TR、2SA1869(定格は50V・3A・10W)を手元のストックから探し出し交換、これで復活、ついでに簡単なクリーニングと、測定器で基本特性の確認を経て無事修理完了である。

TR破壊の原因を探るべく周辺回路をあたってみたが、特に異常は見当たらない。なぜこのTRが破壊したのか(?)、真の原因は定かではないが、モールドタイプ(TO-220)のTRでは、長い間に繰り返される熱ストレスで、顕微鏡の世界ではあるがモールド樹脂が膨張・収縮を繰り返し、ボンディングワイヤーが切れてしまう、あるいはペレット電極部のボンディングが外れてしまう、などのトラブルがまれにではあるが発生する。TR交換後のDC電位をあたった限り、TRの定格に対しては十分余裕の設計、多分これが原因であろうと推測して、しばらく使用しながら様子を見ることにした。

F特はカットオフ500Hz 2Wayモードで測定してみた。結果は-3dBポイントでR chのローパスが484Hz、ハイパス459Hz。Lchはローパス500Hz、ハイパス462Hzと測定された。経時変化による若干のFズレはあるが、実用上では問題ない範囲に収まっている。スロープ特性もベッセル関数-24dB/octの傾斜に乗っている。

TA-D88のローパス側はDCアンプ故、出力端子にはオフセット電圧が発生する。オフセットは-0.33mV/R ch、+0.66mV/L chと測定されこれも異常なし、入力にコンデンサーが入っていない真空管パワーアンプでも躊躇なくつなぐことができる。さらにオフセット電圧を追い込むのであれば、基板上の半固定抵抗で調整は可能である。

発売から30年も経過してる本機ではあるが、基本特性の経時変化も少なく、筐体は密閉されており内部は綺麗な状態が保たれているのは好印象である。基本動作はOK、早速システムに入れて聞いてみた。


■2 WayモードでのF特(実測)■
■■■■■■ カットオフ周波数:500Hz・2 Wayモード
出力:0dBm(フラットエリア)
負荷抵抗:100kΩ

−3dBポイントの実測周波数
R chローパス:484Hz
R chハイパス:459Hz
L chローパス:500Hz
L chハイパス:462Hz

ひずみ率(THD+N)
R ch LP・100Hz:0.0013%
R ch HP・10kHz:0.0021%
L ch LP・100Hz:0.0014%
L ch HP・10kHz:0.0022%

実は17年前に作って以来使い続けている自作チャンデバは、TA-D88、TA-D900のバッファーアンプ部を範として作られている。バッファーアンプの回路図はご参考まで下記にご紹介している。

しかし、自作チャンデバのカットオフ周波数は2 Wayポジションでは600Hzに固定、傾斜は12dB/octである。周波数の分割は、3 Wayまたは2 Wayに対応させている。一時期ツイターを入れていたことがあったが程なく2Wayに戻し、もっぱらカットオフ600Hzの2 Wayで使用している。

ウーハーはJBL 2225J (16Ω)をパラレルにつないだダブルウーハー、中高域はTAD TD-4001にバイラジアルホーンJBL2380Aの2 Wayマルチシステムである。
TAD TD-4001+JBL 2380A
このスピーカーシステムはかれこれ20年弱、長きに渡り我がリスニングルームに鎮座している。

アンプは低域用にはこのところ不動のKT88パラレルPPモノーラル・パワーアンプ「HK-13」、中高域には完成して間もないアンプではあるが、パーマロイ出力トランス搭載の同じくモノーラル・パワーアンプ、300B プッシュプル「HK-16」をエージングとテストを兼ねてつないでいる
『自作の12db/octに比較したTA-D88の音質変化』
ここで、自作チャンデバをTA-D88に入れ替えてみた。カットオフは500Hzの2 Way、ウーハーとスコーカーは同相接続の設定である。

■クロス付近での持ち上がりがなくなり、聴感上の周波数レンジが大幅に広がったように聴こえてくるのが大きな変化。
■2つのスピーカが違和感なくつながれ、自然さが増す。
■ツーターを「入れる入れない」、頭の中のもやもやが払拭され、TD-4001の持つ広い周波数レンジの実力を余すことなく発揮、ひずみ感のないクリアーな中高域がホーンから聴ける。
■TD-4001の高域が良く伸び、シンバルのリアル感、ハイエンドまで良く伸びた弦楽器、ピアノのアタック感などなど、実在感が増した。
■多少あったウーハーのブーミー感がなくなり、ローエンドのエネルギーが増した。ダンピングが効いて良く弾むベース、キックドラムの“一発”、オーケストラのティンパニーなど、再生音の基本になる低音部の楽器が心地良く響く。
JBL 2225J Parallel

自作デバイダーとの比較では、いわゆる「音の質(クォリティー)」という意味での相違はないが、12dB/octと24dB/oct のスロープ特性の違いによる聴感上の差は大きい。

カットオフ近辺での聴感でのフラットネスは24dB/octに圧倒的な優位性があり、ウーハー、スコーカーが自然につながる。その結果ローエンドからハイエンドまで帯域が広がり、2 Wayマルチの“高域不足感”が解消された。これであればツイーターを入れた3 Wayマルチの必要性は感じない。むしろツイターではなくミッドバスを入れたらどうなるのであろうか・・・?。

マルチシステムとお付き合いして約20年、この先まだまだやることがありそうである。4次ベッセル関数フィルター・TA-D88を聞きながらそんなことを思う次第である。

TA-D88・TA-D900 Buffer Ampの基本回路
図は、TA-D88、TA-D900のバッファーアンプ部の基本回路を示す。TA-D900の基本バッファーアンプ回路で使用されている各素子は下記のとおりである。

Q206:2SK244(SIP・デュアルFET)・TA-D900
    :TA-D88は2SK97(DIP)
Q208:2SA884(デュアルPNP TR)
Q210:2SC1963(デュアルNPN TR)
Q209:2SA893(PNP TR)
D103:10YD2.0(定電流ダイオード)
■■
デュアルFET・2SK245と2SK97
「入力バッファーアンプとローチャンネルアンプ」
TA-D88は位相特性(群遅延時間特性)を重視しているので、入力バッファーアンプおよびローチャンネルのフィルターアンプ、出力バッファーアンプは完全DCアンプを採用している。

これはカップリングコンデンサー使用による、低音域の群遅延時間特性の悪化をまねき、ベッセル関数フィルターを使用したメリットが無くなってしまうからである。

完全DCアンプ回路採用の本機では、DCオフセットとDCドリフトには十分な配慮がなされている。2段差動構成の初段には、特に厳選したデュアルFETを使用している。2段目差動およびカレントミラー回路にもデュアルトランジスターを使用し、DCドリフトを抑えている。

「ハイチャンネルアンプ」
ハイチャンネルのフィルターアンプとその出力バッファーは、初段に内部でカスコード接続された高周波用FETを使用したDCアンプである。

しかし、ハイチャンネルはフィルター自体がDCを通す必要がないので、DCドリフトおよびDCオフセットに関してはローチャンネルアンプに比べて余り配慮しなくともよい。

回路上はFETのソースフォロワー回路にNFBをかけ、入力インピーダンスを高く、出力インピーダンスを低くした、バッファーアンプの理想的な回路としている。

ハイチャンネルアンプはDCオフセットが常に出力されているので、出力レベルアッテネーターの前と出力端子にカップリングコンデンサーを使用している。
このカップリングコンデンサーにはタンタルコンデンサーにフィルムコンデンサーをパラレル接続、音質劣化に配慮されてる。

位相補正用コンデンサーには、高周波特性に優れたシルバードマイカコンデンサーを使用し、安定度を高めている。
ローパス・フィルターの基本回路




ハイパス・フィルターの基本回路

写真上・自作のベッセル型12dB/oct
写真下・ベッセル型24dB/oct SONY TA-D88

自作チャンネルデバイダーのバッファーアンプ部の基本回路は、TA-D88と同じ回路を採用しているが、フィルターの遮断特性が異なる。


■SONY TA-D88のベッセル関数フィルターについて■
 (TA-D88の取説より抜粋・掲載)
マルチシアンプステムでは、エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク、通称チャンネル・デバイダーの特性がシステムの良否に影響する要素は大きい。

ネットワークを形成するフィルター回路にはバターワース型と称するフィルター回路が多く使われている。バターワース回路は通過帯域をできるだけフラットにし、遮断帯域を急峻にカットしたいためである。

しかし一方では18dB/oct、あるいは24dB/octといった遮断帯域の急峻なフィルターより、12dB/octの方が各帯域のつながりが良いとも言われている。

18dB/octと12dB/octのフィルターを比較すると、群遅延時間特性は12dB/octの方が優れている。特に18dB/oct以上の急な遮断特性を持つフィルターでは、遮断帯域と通過帯域のところで群遅延時間特性が大きく変動し、過渡ひずみが多く出る。ローパスフィルターの矩形波応答を見ると、必ずリンギングが発生していることがわかる。

リンギングの大きさは18dB/octより12dB/octの方が少ないので、12dB/octの方が「音が良い」と言われるのと一致する。こう考えてみると、24dB/octを使用する必要がないように思えてくる。

しかし、スピーカーのことを考えると、できるだけ不必要な帯域の信号はスピーカーに入らないようにする必要がある。特にホーン型スピーカーでは、ホーンのカットオフ周波数より低い帯域は大きくうねった特性をしている。従って、この帯域の信号は少しでもスピーカーに供給しないほうがよいわけで、12dB/octより18dB/octの方が良く、24dB/octは更に良いわけである。

ここで、上記のことを考えてみると、全く相反する結果が出てくる。そこで新しく考え出されたのが位相直線型(ベッセル関数)フィルターである。

ベッセル関数フィルターは、通過帯域での群遅延時間特性が一定になるので、バターワースフィルターのような大きなリンギングはなく、過渡応答ひずみが少なくなり、信号波形の再現性が高い。また、使用帯域外で大きくうねりを持ったホーン型スピーカーの使用にも適している。

以上の理由によりTA-D88は24dB/octの遮断特性を持つベッセル関数フィルターを採用している。


■TA-D88の主な規格■
型式 エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
回路方式 ベッセル関数フィルター、 DCアンプ構成
使用半導体 FET 42個、 トランジスター 100個、 ダイオード 6個
通過帯域利得 0dB
クロスオーバー周波数 本体へのUNIT装着は下記の内3個、 2 Way 〜 4 Wayに対応
UNIT-1: 140Hz、 225Hz、 280Hz
UNIT-2: 500Hz、 800Hz、 1kHz
UNIT-3: 1.25kHz、 2kHz、 2.5kHz
UNIT-4: 5kHz, 8kHz、 10kHz
UNIT-0: 50Hz,  80Hz,  100Hz  注)TA-D900発売時リリース
UNIT-S2: 50Hz, 560Hz, 700Hz 注)UNIT-2のスペシャルバージョン
注)フィルターユニットはTA-D88、TA-D900 相互に互換性あり
スロープ(遮断)特性 24dB/oct
入力感度/入力インピーダンス 1V/50kΩ
最大出力レベル 7Vrms(ひずみ率 0.01%以下)
出力インピーダンス 100Ω
ひずみ率 0.003%以下 (1V出力時)
0.005%以下 (5V出力時)
S/N 110dB以上 (1V入力、クローズドサーキット、IHF-A補正)
周波数特性 DC〜100kHz(+0 -1dB)
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 20W



■■■■ 「TA-D88のブロックダイアグラム」

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